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Melerdis Knowledge — Series 01

Series 01 · 生物学的評価をはじめから第1章

生物学的評価とは? ― 医療機器の安全性は「正しく動くこと」だけでは語れない

執筆

一つ、医療機器を思い浮かべてみてください。血管に通すカテーテル。体内に留まるインプラント。傷口を縫う縫合糸。

どれも「安全であってほしい」と感じます。では、その「安全」とは、何を指しているのでしょうか。

「安全」とは、正しく動くこと ―― そう捉えられがちです

多くの場合、医療機器の安全性は、性能の問題として語られます。

カテーテルが途中で折れないか。インプラントが想定より早く摩耗しないか。縫合糸が必要な強度を保てるか。設計どおりに機能し、壊れないこと。それが安全だ、と。

これは間違いではありません。機能の不具合は、確かに重大なリスクです。

けれど、これだけでは語り切れないリスクが、もう一つあります。

体に触れること自体が、リスクになりうる

医療機器は、体に触れます。あるいは、体内に留まります。人体と接触することで、生物学的なリスクが生じうる ―― この視点が、機能とは別に必要になります。

このとき問題になるのは、機器が正しく動くかどうかだけではありません。その機器を作っている材料が、あるいは製品から溶け出す物質が、人体にどんな影響を及ぼすか ―― これもまた、確認しなければならないリスクです。

材料や製品が人体と接触することで生じうる生物学的な影響。これは、機能のリスクとは別の軸です。どれほど正しく動く機器でも、材料が体に害を及ぼすなら、安全とは言えません。

医療機器のリスクは、機能の不具合だけではない。ここに、もう一つの軸があります。

その影響は、一種類ではない

生物学的な影響と言っても、一つの現象を指すわけではありません。

とえば、接触した部位に刺激反応が起きることがあります。材料や化学物質に対して、感作、すなわちアレルギー反応につながりうる免疫反応が生じることもあります。製品から溶け出した物質が、接触部位を越えて全身に影響することもあります。細胞レベルで害が及ぶこともあります。

これらは、それぞれ別の現象です。一つを確認したから、他も大丈夫とは言えません。

しかも、どの影響を重く見るべきかは、機器によって変わります。皮膚に短時間触れるだけの機器と、血管内に長期間留まる機器とでは、警戒すべき影響が違います。接触する部位、接触する時間の長さによって、考えるべきリスクの中身が変わるのです。

(それぞれの影響が具体的に何を指すのか、どう確認するのかは、後の章で扱います。ここでは「確認すべき影響が複数あり、機器によって重みが変わる」という事実だけ、押さえておいてください。

だから、確認しないまま世に出すわけにはいかない

こうした生物学的な影響は、目には見えません。

外から眺めても分かりません。多くは、実際に使ってみて初めて表面化するようでは遅い、という性質を持っています。だからこそ、市場に出す前に、体系立てて確認しておく必要があります。

この、人体との接触によって生じうる生物学的なリスクを評価し、安全性を説明する営み ―― これが、生物学的評価です。

医療機器の安全性は、機能や性能だけで決まるものではありません。人体と接触することで生じうる生物学的な影響まで含めて、はじめて医療機器の安全性を説明することができます。生物学的評価は、そのために存在します。

ひとつ、開発の現場で起きやすいことに触れておきます。機器の材料を変更したとき、性能への影響を再確認することは、多くの人が思いつきます。強度は保てるか、動作は変わらないか。一方で、その材料が体に及ぼす影響を確かめ直す必要は、見落とされがちです。機能の目でしか安全性を見ていないと、生物学的なリスクは視界から外れてしまいます。

この章で、持ち帰ってほしいこと

医療機器の安全性は、「正しく動くこと」だけでは語れません。

材料や製品が人体と接触することで生じうる生物学的な影響も、確認すべきリスクです。そして、その影響は一種類ではなく、機器の使われ方によって、見るべきものが変わります。

だからこそ、これらのリスクを事前に、体系立てて確認する必要があります。その営みが、生物学的評価です。

ここまでで、「なぜ確認するのか」は見えました。残るのは、次の問いです。

生物学的なリスクがあるから、確認が必要である。では、その確認は、どのように組み立てるべきなのか。

その問いに答えるのが、ISO 10993-1いう規格です。次章で扱います。