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Melerdis Knowledge — Series 01

Series 01 · 生物学的評価をはじめから第2章

ISO 10993-1は、評価を設計するための規格である ― 生物学的評価の進め方

執筆

試験の見積もりを取ろうとして、ISO 10993-1開く。実施すべき試験の一覧が並んでいると思って開くと、少し戸惑うかもしれません。

規格に書かれているのは、試験のリストではありません。評価そのものをどう組み立てるか、という考え方です。

生物学的評価の進め方は、この一点をどう捉えるかで大きく変わります。

試験を選ぶことと、評価することは違う

多くの現場では、接触部位や接触期間に応じた評価表から作業を始めます。そこから、評価すべき生物学的影響を洗い出す。これは規格が示す出発点であり、正しいやり方です。

問題は、ここで作業が終わったと感じてしまうことです。

評価すべき項目が分かった。では、その一つひとつについて、どのエビデンスを、どこまで揃えれば「十分」と言えるのか。それを判断する工程が、まだ残っています。

この判断こそが、評価設計の本体です。

生物学的評価とは、試験を選ぶ作業ではありません。評価を設計する作業です。

なぜ「設計」なのかリスクマネジメントの中にある規格

ISO 10993-1は、単独で成り立つ規格ではありません。ISO 14971リスクマネジメントプロセスの中に置かれています。

2025年の最新版では、この位置づけがより明確になりました。

評価表は出発点にすぎません。実際の評価では、製品固有のリスクを特定し、曝露期間を見積もり、合理的に予見できる誤使用まで考慮する。そこまでが求められます。

出発点は共通でも、その先の組み立ては製品ごとに違います。だから、選ぶのではなく、設計する。

評価とは、情報のギャップを埋めることである

評価すべき影響が定まったあと、実際に行うのは、エビデンスの組み合わせを考えることです。

既存データ、文献、化学分析、生体適合性試験(in vivo / in vitro)。これらをどう組み合わせるか。

ここで大事なのは、試験を実施すること自体は目的ではない、ということです。

目的は、リスクを説明するうえで足りていない情報を埋めることです。

とえば、長く使われてきた材料であれば、文献や化学分析だけで十分に説明できることがあります。この場合、追加の試験は要りません。

一方、新しいコーティングのように、参照できるデータがほとんどない材料もあります。既存の情報では説明が届かない。ここではじめて、生体適合性試験でギャップを埋めます。

どこにギャップがあり、それを何で埋めるか。この判断の積み重ねが、評価設計です。

出発点は、試験機関でも規格でもなく、メーカーである

評価設計は、製品情報の整理から始まります。

使用方法、接触部位、接触期間、材料、製造工程、滅菌方法、想定されるハザード。これらを言語化できるのは、製品を最もよく理解しているメーカー自身です。

ここが曖昧だと、その先をどれだけ精緻に組み立てても、土台から崩れます。

しかも、一度整理すれば終わりではありません。

開発の途中で、コーティング材が変わる。接触時間が延びる。こうした仕様変更は珍しくなく、そのたびに評価の前提が動きます。

整理した製品情報は、開発の進行に合わせて見直し続ける対象です。

評価は、複数の専門領域を一つに束ねる作業である

生物学的評価には、メーカー、分析化学者、毒性学者、試験機関、薬事担当が関わります。

それぞれの知見は独立していて、誰か一人だけで評価が完結することはありません。

難しいのは、各領域が異なる前提のもとで判断している点です。

とえば、メーカーが整理した使用条件 ―― 接触部位や接触時間 ―― が曖昧なまま試験機関に渡ったとします。すると、組まれる試験が、実際の使われ方と噛み合わなくなる。

それぞれが自分の持ち場で正しく作業していても、前提の受け渡しがずれていれば、評価全体の筋は通りません。

必要なのは、関わる専門家を増やすことではありません。それぞれの知見を、一つの評価として束ねることです。

唯一の正解がないから、「設計」が要る

生物学的評価はリスク評価です。だから、唯一の正解はありません。

規格を正しく適用しても、評価する専門家や規制当局によって、説明の組み立て方が分かれることがあります。

さらに、評価には常に制約が伴います。

一つは、動物福祉です。in vivo試験は科学的に必要な場合に限る ―― 最新版の規格は、この考え方を一段と強めています。もう一つは、予算と期間です。理論上望ましい組み合わせが分かっていても、使える資源には限りがあります。

これらの制約があるからこそ、何を優先し、どこまでを既存の情報で説明し、どこから試験に頼るのかを決めなければなりません。正解が決まっていない中で、制約を踏まえて最善を組み立てる。これが「設計」という言葉の意味です。

(動物福祉と資源のどちらも、それぞれに固有の判断を伴う論点です。ここでは制約の一例として触れるにどめ、掘り下げは各章に譲ります。

まとめ

評価すべき生物学的影響を特定することは、入口にすぎません。

そこから、情報ギャップの見極め、メーカーを起点とした前提の整理、多分野の知見の統合、そして制約の中での優先順位づけ。これらを経て、評価ははじめて形になります。

ISO 10993-1は、試験を選ぶための規格ではありません。

評価を設計するための規格です。


この設計を、章ごとに

評価を設計する ―― といっても、それは一つの作業ではありません。

その設計を実際に進めるには、一つひとつの問いを掘り下げていく必要があります。

メーカーは何を整理すべきなのか。

評価計画(BEP)はどのように組み立てるのか。

化学分析は、製品のリスクをどこまで説明できるのか。

その分析結果を、どのように毒性学的リスク評価へつなげるのか。

in vitroとin vivoは、どのような考え方で使い分けるのか。

そして、同じ評価設計でも、FDAとISOでは何が違うのか。

これらはすべて、「評価を設計する」という一つの考え方から生まれる問いです。

Melerdis Knowledgeでは、生物学的評価を「試験の集合」ではなく、「評価を設計するプロセス」として、一つずつ整理していきます。