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Melerdis Knowledge — Series 01

Series 01 · 生物学的評価をはじめから第4章

BEPは、評価の出発点である ― リスクを管理するための生物学的評価計画

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前章では、生物学的評価プロジェクトが、計画し、取得し、統合する、という流れで進むことを見ました。その流れの起点にあるのが、BEP(Biological Evaluation Plan、生物学的評価計画)です。

生物学的評価は、試験を選ぶことから始まるのではありません。製品のリスクを見定め、それに基づいて評価を設計することから始まります。そして評価は、既存の情報、化学分析、試験といった複数のエビデンスを束ねて、一つの結論に至ります。

その設計を最初に形にする文書が、BEPです。この章では、BEPが何を決める文書なのか、そしてなぜ評価はBEPから始まるのかを見ていきます。

BEPは、試験の一覧ではなく、リスク管理の計画である

BEPと聞くと、実施する試験を並べた一覧を思い浮かべるかもしれません。細胞毒性、感作性、刺激性。それぞれの試験と、依頼先と、スケジュール。

けれど、試験の一覧だけでは、BEPの役割は果たせません。

ISO 10993-1:2025は、生物学的リスクを管理するために評価を計画し、その計画を文書化することを求めています。その計画を示す文書が、BEPです。

リスクを管理するには、まず何を管理するのかを決めなければなりません。この製品で、何が起こりうるのか。どこまでなら許容できるのか。その判断を、誰が、どの情報に基づいて行うのか。これらが決まっていなければ、どれだけデータを集めても、評価としての結論は出せません。

試験を行うかどうか、行うならどの試験かは、これらの問いに答えた結果として決まります。だから、生物学的評価はBEPから始まります。BEPは評価の出発点であり、リスクを管理するための計画です。

BEPが答える、三つの問い

規格は、BEPに含めるべき事項を挙げています。ここでは、それを三つの問いに整理します。

何が起こりうるのか

一つめは、製品とその使われ方から、起こりうるリスクを特定することです。

まず、製品を記述します。材料、構成、製造工程、そして滅菌や再処理など、製品がライフサイクルの中でさらされる工程です。意図した使用に加えて、合理的に予見できる誤使用も考えます。接触の種類、頻度、期間によって製品を分類し、生物学的安全性に関わる特性を特定します。このとき、製造や再処理の過程で加わる添加剤、加工助剤、工程由来の混入物、滅菌残留物なども考えます。

そのうえで、生物学的なハザード、それにさらされる危険状態、そこから生じうる危害を特定します。

これらを言語化できるのは、製品を最もよく知るメーカー自身です。BEPの最初の問いは、メーカーの情報から始まります。

何をもって十分とするのか

二つめは、評価のゴールを決めることです。

特定したリスクのそれぞれについて、どうなっていれば許容できるのか。その受入基準を定めます。あわせて、生物学的安全性について、全体としての結論をどう判断するのか。その基準も定めます。

ゴールが先に決まっているから、何を集めればよいかが決まります。

既存のデータで何が説明でき、何が足りないのかを見極めるギャップ分析も、BEPに含まれます。基準があるからこそ、足りないものが見えます。ギャップ分析の進め方は、次章で扱います。

どうやって結論まで運ぶのか

三つめは、評価を実行する道筋です。

最終的なBER(Biological Evaluation Report、生物学的評価報告書)をどう組み立てるのか。そのために、追加で取得すべきデータは何か。試験を行う場合は、その試験を選んだ理由もBEPに書きます。

さらに、分析化学、生物学的試験、毒性学、工学など、どの専門性が必要か。評価の責任を誰が持つのか。これらも定めます。

生物学的評価は、一人では完結しません。BEPは、関わる専門家の知見を一つの評価に束ねるための段取りでもあります。

なお、規格はこれらの事項を、BEPに含めるか、参照する形でよいとしています。リスクマネジメントファイルなど、すでにある文書を参照しても構いません。要は、これらの問いに答えた状態で評価を始めることです。

なぜ、計画から始めるのか ―― 規格の流れから読めること

BEPが評価の出発点であることは、ISO 10993-1の版の流れからも読み取れます。

2003年版の副題は「評価及び試験」でした。その後、副題は「リスクマネジメントプロセスにおける評価及び試験」となり、2018年版もこの副題です。2018年版には、評価を計画するという考え方がすでにありました。附属書には、表に挙がった項目のすべてに試験を計画するだけでは要求を満たさない、とも書かれていました。ただし、計画に関わる要素は、本文や附属書のあちこちに分かれていました。

2025年版では、副題から「試験」という言葉が外れました。そして、BEPが独立した箇条として立てられ、記載事項がまとめて示されました。その並びは、ISO 14971のリスクマネジメントが計画から始まり、意図した使用と予見できる誤使用、安全に関わる特性、ハザードと危険状態の特定へと進む流れと重なります。一つめの問いに挙げた項目のうち、特性の考慮やハザードの特定は、2018年版にもありました。2025年版では、予見できる誤使用や、ハザードから危険状態、危害へという整理も含めて、これらが計画の記載事項として並べられています。

版を重ねるごとに、重心は試験から、リスクの管理へと移ってきました。その管理の起点として、計画が前に出てきています。規格の流れそのものが、リスクを管理するにはまず計画が要る、ということを示しています。

現場では、こう起きる

ある製品で、化学分析を進めていたとします。結果を見ると、材料の成分からは説明のつかない物質が検出されていました。

調べていくと、成形工程で使っていた離型剤が残留したものだと分かりました。

ここから、物質の特定、毒性の確認、場合によっては工程の見直しと再分析が必要になります。スケジュールは、大きく後ろへずれます。

もし、BEPの段階で製造工程と、そこで使う加工助剤を洗い出していたら、どうだったでしょうか。残留しうる物質を、分析の前にリスクとして把握できていたはずです。工程を改善してから分析に進む。あるいは、分析でその物質を狙って確認する。結果が出る前に、打てる手があったかもしれません。

計画の段階でリスクを把握していれば、分析は、想定したリスクを確かめる場になります。

BEPは、育っていく

BEPは、最初から完成している必要はありません。規格の注記も、計画は概要から始まり、情報が集まるにつれて精緻化されうる文書だとしています。

ギャップ分析が進めば、足りない情報が具体的になり、BEPに反映されます。追加の情報が得られれば、また見直されます。製品の材料や仕様が変われば、評価はBEPに立ち返って組み直されます。前章で見た反復のループは、BEPから始まり、BEPに戻ってきます。

BEPは一度書いて終わる提出書類ではなく、評価の進行とともに更新され続ける設計図です。

この章で、持ち帰ってほしいこと

生物学的評価は、BEPから始まります。リスクを管理するには、まず計画が要るからです。

BEPは、試験の一覧ではありません。この製品で何が起こりうるのか。何をもって十分とするのか。どうやって結論まで運ぶのか。試験を選ぶ前に、これらの問いに答える文書です。

リスクは、試験の結果を見てから把握するものではありません。計画の段階で見定め、管理の道筋を決めておく。それが、評価の出発点としてのBEPの役割です。

では、手元の情報で何が説明でき、何が足りないのか。それを見極めるのが、ギャップ分析です。次章で扱います。