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Melerdis Knowledge — Series 03

Series 03 · 医療機器の再処理バリデーション:実務編第2回

用手洗浄のみを指定できるか? ― ISO 17664-1の要求と判断根拠

公開:

著者:Melerdis Partners

「手で洗えば、きれいになる」。そのことを確認できれば、用手洗浄だけを使用者に案内してよいのでしょうか。

ここには、二つの問いがあります。指定した用手洗浄で、必要な清浄度が得られるか。そして、なぜ自動洗浄を指定せず、用手洗浄のみとするのか。この二つは、つながっていますが、同じ確認ではありません。

実務編の第1回では、必要な処理工程をどう決めるかを考えました。第2回と第3回は、ISO 17664-1の対象機器における用手洗浄を扱う2記事です。この回では方法を選ぶ根拠を、次回はその方法のバリデーションと使用説明書(IFU)に示す再処理の指示を取り上げます。

本記事はISO 17664-1:2021を対象とし、一致規格であるJIS T 17664-1:2025を参照して解説します。本文の条項番号は同JISによります。具体例は実務上の検討例であり、規格が一律に指定する処理手順や試験方法ではありません。[1]

規格が定めるのは、メーカーが提供する情報

ISO 17664-1は、医療機器の処理について、メーカーが使用者に提供すべき情報を定める規格です。個々の機器の洗い方を、一律に指定するものではありません。

対象は、通常無菌である部位に入るクリティカル機器、粘膜や正常でない皮膚に接触するセミクリティカル機器、または滅菌を意図する機器です。それらの使用前・再使用前の処理に関する情報を扱います。日本では、2025年にJIS T 17664-1として制定されました。[1:箇条1]

滅菌を意図しないノンクリティカル機器については、ISO 17664-2の対象範囲を確認します。以下で述べるISO 17664-1の自動洗浄に関する要求を、すべての医療機器へ一律に当てはめるものではありません。[1:箇条1/2:箇条1]

用手洗浄とは、自動洗浄処理を使わずに、後続の処理や意図する用途に必要な程度まで汚れを取り除くことです。指定したブラシで内腔をこする、洗浄液を流し込む、すすぐといった操作が含まれます。洗浄は汚れを除去する工程であり、それだけで必要な消毒や滅菌まで終わったことにはなりません。[1:3.1、3.4]

では、その手順で必要な結果が得られることを、何で説明するのでしょうか。

ここで必要になるのが、洗浄バリデーション(妥当性確認)です。決めた手順が意図する用途に適した結果を得られることを、客観的な証拠で確かめます。「担当者がきれいになったと思った」という判断だけでは、見えない内腔や隙間に残る汚れまで説明できません。[1:3.20、4.1–4.2]

ISO 17664-1では、自動洗浄の指定が基本になる

JIS T 17664-1の6.6.1.1は、機器が自動洗浄処理に耐えられない場合を除き、一つ以上の妥当性確認済みの自動洗浄方法を指定することを求めています。耐えられない場合には、その問題を使用者に知らせる記載が必要です。

続く6.6.1.2では、自動洗浄が不可能な場合に、妥当性確認済みの用手洗浄方法を指定することを求めています。[1:6.6.1.1–6.6.1.2]

ここで区別したいのが、「用手洗浄で洗える」という証拠と、「自動洗浄を指定できない」という根拠です。用手洗浄の試験で良い結果が得られたとしても、それだけで自動洗浄を指定しない理由まで説明したことにはなりません。

また、用手洗浄と自動洗浄は、必ずしも二者択一ではありません。6.6.1.1は、自動洗浄のバリデーションの一部として、妥当性を確認した用手洗浄方法を含めることも認めています。例えば、用手による予備洗浄と自動洗浄を組み合わせるなら、その用手工程を含む方法としてバリデーションします。[1:6.6.1.1]

方法を選ぶ理由と、その方法の有効性を分けて考える

判断は二段階です。

まず、機器の構造、材質、機能、想定する処理環境から、自動洗浄を指定できない理由を整理します。次に、代わりに指定する用手洗浄について、指示どおりに実施したときに必要な結果が得られることを確認します。

箇条4は、提供情報で特定する各プロセスの妥当性確認を求めています。箇条5は、提供する情報の内容と詳細を決めるためのリスク分析を求めています。[1:箇条4–5]

「自動洗浄が不可能」という文言を、設備不足や費用の都合だけで広く解釈しないことが大切です。一方で、規格が市場のすべての装置を試験することや、決まった形式の比較試験を要求しているわけでもありません。

実務では、どの方法を検討し、どの条件が適用できず、何を根拠にそう判断したのかを記録します。方法の名前だけでなく、その方法を選ぶまでの判断を説明できることが重要です。

具体例で、判断の進め方を考える

以下は仮想事例です。特定の製品群を、一律に「用手洗浄のみでよい」と判定するものではありません。

例1:熱に弱い接着部がある場合

ある機器で、評価した洗浄消毒装置のサイクル後に、接着部が剥がれたとします。これは、その条件への耐性に問題がある証拠になります。

ただし、洗浄、熱消毒、乾燥のどの段階で損傷したかが分からなければ、自動洗浄全般を採用できないとは言い切れません。

まず、損傷に関係する温度、時間、薬剤、噴射条件を調べます。そのうえで、低温の洗浄条件や、消毒・乾燥を分けた方法など、対象市場で実行可能な選択肢を検討します。

材質資料、設計上の制約、試験結果をつなげることで、「どの条件に、なぜ耐えられないのか」が明確になります。これは実務上の検討例であり、規格が特定の比較試験一式を指定しているという意味ではありません。

例2:一部を浸せない電子部品付き機器の場合

接液してよい部分が限られ、噴射や浸漬によって内部へ液が入る機器を考えます。自動洗浄への耐性を評価する際には、浸水、絶縁、機能への影響と、カバーや分解による対応の可否を整理します。「電子部品がある」という説明だけでは不十分です。

用手洗浄を選ぶ場合も、どこを洗浄し、どこを濡らしてはいけないかを明確にします。

汚染される部分に安全にアクセスできず、用手でも十分に洗えないのであれば、設計や再使用の前提を見直す必要があります。用手洗浄への切替えだけで、問題が解消するわけではありません。

例3:細い内腔に専用ブラシを通す場合

自動洗浄だけでは内腔に汚れが残っても、ブラシによる前処理を加えると洗える場合があります。この場合には、「用手工程を含む自動洗浄」という選択肢を検討できます。

また、専用コネクタや流路接続が不足していることと、機器そのものが自動洗浄に適していないことは、区別して考えます。

自動洗浄の一条件で不合格になったという事実だけで、直ちに用手洗浄のみと結論付けないことがポイントです。

製品ファミリーとして評価する場合、4.3は、機器間の共通性を示し、ファミリーの最悪事例となる特性を対象に検証することを求めています。代表品を用いるなら、その特性を代表している理由を説明します。内径、長さ、屈曲などは、洗浄にとって厳しい特性を考える際の検討例です。[1:4.3、6.6.1.1、附属書C.3]

設備や費用の事情は、機器の不適合性とは別に整理する

「病院に装置がない」「従来から手洗いしている」「試験費用を減らしたい」。これらは、それだけでは機器が自動洗浄に耐えられないことの説明にはなりません。

対象市場で利用できる装置への配慮は必要です。ただし、現場に設備がないことと、機器がその処理に耐えられないことは、別の問題です。実施可能性と機器の不適合性を分けて整理します。[1:6.1.4、6.2.1]

用手洗浄のみとする前に、確認したいこと

  • 自動洗浄のどの条件が、機器のどの部分に問題を生じさせるか説明できる。
  • 洗浄時の問題と、熱消毒や乾燥時の問題を区別している。
  • 実行可能な条件変更や、用手による前処理との組み合わせを検討している。
  • 判断に用いた設計資料、試験結果、リスク分析が対応している。
  • 自動洗浄に耐えられない場合の注意事項を、使用者に伝える準備がある。

この回で、持ち帰ってほしいこと

用手洗浄のみを選ぶには、「その方法で洗える」という証拠だけでなく、「なぜ自動洗浄を指定できないのか」という根拠が必要です。

機器のどの特性が、どの処理条件に適さないのか。条件変更や用手工程との組み合わせを検討しても、なぜ指定できないのか。その判断と、選んだ用手洗浄の有効性を、分けて整理します。

方法を選ぶ根拠が整理できたら、次はその手順を裏付ける段階です。第3回では、汚れの再現、操作条件の具体化、残留物の評価を通じて、試験計画と使用者に伝える指示書をどうつなぐかを考えます。

参考規格・参照資料

本記事は、関連する規格と実務上の知見をもとに、医療機器評価の考え方を解説しています。本文には、規格に対する執筆者の解釈や実務上の見解を含みます。規格原文の引用・逐語訳ではありません。

[1]JIS T 17664-1:2025 — ヘルスケア製品の処理行為-医療機器の処理行為に関して医療機器製造業者が提供すべき情報-第1部:クリティカル及びセミクリティカル医療機器(外部サイト・別タブで開きます)

対応国際規格:ISO 17664-1:2021(外部サイト・別タブで開きます)(対応の程度:IDT、一致)。上記リンクは公式の規格情報です。

主な参照箇所:箇条1(pp.1–2)、3.1・3.4(pp.2–3)、3.20(p.5)、4.1–4.3・箇条5(pp.5–6)、6.1.4・6.2(p.7)、6.6.1(p.8)、附属書C.3(p.21)。ページはJISの印刷ページ番号であり、ISO版のページ番号とは異なります。附属書Cは参考です。

[2]ISO 17664-2:2021(外部サイト・別タブで開きます), Processing of health care products — Information to be provided by the medical device manufacturer for the processing of medical devices — Part 2: Non-critical medical devices. 参照箇所:箇条1。第1部との対象範囲の区別に限って参照しています。

本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別製品への適合性や、規制当局による審査・承認の結果を保証するものではありません。実際の評価では、製品特性、対象市場および適用される規格・ガイダンスを個別に確認してください。