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Melerdis Knowledge — Series 03

Series 03 · 医療機器の再処理バリデーション:実務編第3回

用手洗浄バリデーション:試験計画と使用説明書の確認ポイント ― 試験条件を、再現できる手順へつなぐ

公開:

著者:Melerdis Partners

用手洗浄の試験で合格した結果は、使用者に案内するどの手順を裏付けているのでしょうか。

第2回では、用手洗浄のみを選ぶ理由と、その方法の有効性を分けて考えました。方法を選ぶ根拠が整理できても、それだけで使用者に案内できる手順が完成するわけではありません。

指定した手順で必要な清浄度が得られることを確認し、その条件を使用者が再現できる形で伝える。第3回では、初めて洗浄バリデーションに取り組む担当者に向けて、試験計画と、使用説明書(IFU)に示す再処理の指示とのつながりを整理します。

本記事はISO 17664-1:2021を対象とし、国内規格であるJIS T 17664-1:2025を参照して解説します。本文の条項番号は同JISによります。具体例や試験計画の提案は実務上の検討例であり、規格が一律に指定する処理手順や試験方法ではありません。[1]

バリデーションでは、手順と結果を結び付ける

バリデーションとは、意図する用途に対して方法が適切であることを、客観的な証拠で確かめることです。用手洗浄では、対象機器、汚れ、洗浄手順、評価方法、合否基準を結び付けます。[1:3.20、4.1–4.2]

何を、どの条件で洗い、どのような結果なら受け入れられるのか。その対応が明確でなければ、試験結果を手順の根拠として扱うことはできません。

実務では、指示書を試験後に一から作るのではなく、使用者に案内する予定の手順と条件を試験前に具体化します。その手順を検証し、結果を踏まえて最終的な指示内容を確定します。試験計画と指示書を対応づけて進めることが大切です。[1:4.1–4.2、6.2、6.6.3]

また、洗浄の評価に合格しても、それだけで消毒・滅菌や、再使用時の安全性全体を確認したことにはなりません。洗浄で確認することと、後続工程や製品への影響として確認することは、分けて考えます。

試験計画で、五つのことを具体化する

以下は、用手洗浄の試験計画を具体化するための実務上のポイントです。

JIS T 17664-1は、全製品共通の試験汚染、試験数、残留量の合否基準を定めていません。機器の用途とリスクに応じて、方法と判断基準を事前に設定します。[1:箇条4–5]

1.実際の汚れと、洗いにくい条件を再現する

血液や組織など、使用時に付く汚れを踏まえて、試験に用いる汚染を選びます。内腔や継ぎ目にも着目し、使用後に処理が遅れることを想定するのであれば、放置や乾燥の条件を検討します。

ここでいう厳しい条件とは、想定する使用・処理の範囲で、汚れが落ちにくくなる条件です。極端な条件を理由なく重ねるのではなく、臨床使用との対応を説明します。

例えば、内腔は機器内部の細い通路です。外面がきれいでも、内部には汚れが残っているかもしれません。どこに汚れが付き、どこが洗いにくいのかを、機器の構造と結び付けて考えます。

FDAの解説も、臨床的に妥当な試験汚染、厳しい汚染条件、残留汚染成分の定量を重視しています。これは試験設計の参考情報であり、JISの追加要求として扱うものではありません。[2]

2.手順を、誰が読んでも再現できる形にする

「十分にブラッシングする」だけでは、回数や操作が人によって変わります。

必要に応じて、ブラシの径・材質、挿入方向、往復回数、洗浄液の量、接触時間、すすぎ方法などを具体化します。

6.6.3は、用手洗浄を指定する場合に、該当する情報を含めることを求めています。手順の順序、機器が耐えられる限度を含む処理条件、必要な器具・薬剤、濃度、水質、すすぎ方法、既知の非適合性などを整理します。[1:6.6.3]

細かく書くこと自体が目的ではありません。試験で用いた条件を、使用者が同じように実施できることが目的です。

3.手順の許容範囲と、作業のばらつきを考える

許容する時間や濃度に幅があるなら、その範囲でも必要な結果が得られる根拠が必要です。どの条件が洗浄に厳しいかは、機器と薬剤によって異なります。

6.2.2は、機能の保持や使用者・患者の安全に重大な意味を持つ場合に、プロセスパラメータとその許容範囲の仕様を示すことを求めています。[1:6.2.2]

また、熟練者だけが成功する手順になっていないか、操作の難しさや教育の必要性も検討します。試験数や作業者数を、この規格が一律に決めているわけではありません。[1:箇条5]

4.見た目に加えて、残留物を適切に評価する

洗浄後には、目視による汚れの確認と、必要な残留物評価を組み合わせます。

例えば、タンパク質を指標にするなら、想定する汚れとの関係、採取場所、抽出・回収方法、分析感度、合否基準の根拠を決めます。測定値が低くても、内腔から十分に回収できていなければ、結果の解釈は変わります。

回収率は、機器に残った評価対象物を、測定のためにどの程度取り出せるかを表します。また、検出限界未満という結果は、「残留物がゼロ」という意味ではありません。

測定方法の能力と、事前に決めた合否基準を合わせて判断します。これは評価設計の例であり、JIS T 17664-1が特定の分析法や数値を指定しているという意味ではありません。

5.繰り返し処理の影響と、指示書との一致を確認する

繰り返す洗浄によって、表面、接着部、可動部、機能などに影響がないかを、耐用期間と関連付けて評価します。

同時に、試験で使った分解方法、洗剤、ブラシ、時間などが、実際の指示書と一致しているかを確認します。処理に伴う耐用期間の制限や、既知の非適合条件は使用者に伝えます。該当する場合の回数制限、寿命の指標、機能の確認方法などは、6.3と6.9に沿って整理します。[1:4.1–4.2、6.3、6.9]

洗えることを確認するだけでなく、検証した条件を、繰り返し実施できる情報へつなぐことが必要です。

試験で合格しても、指示書と条件が違えば根拠はつながらない

仮に、試験では内腔をブラシで10往復こすったのに、指示書には「数回こする」とだけ書いたとします。

使用者が2往復で終えた場合、その条件でも同じ結果が得られるとは説明できません。試験に合格したことと、指示書どおりの操作が試験条件に対応していることは、別に確認する必要があります。

必要な操作回数や方法を具体化し、試験条件と一致させます。ここでの数値は説明用であり、推奨条件ではありません。

「よく洗う」を、具体的な条件に置き換える

情報が不足しやすい例は、「中性洗剤でよく洗い、十分にすすぐ」です。どの洗剤を使い、どの部分を、どの道具で、どの程度洗うのかが分かりません。

具体化する際には、次のように必要な条件を順序に沿って示します。

指定した洗剤と濃度で、指定した時間処理する。内腔には適合する仕様のブラシを指定の方向から通し、規定の回数操作する。指定した水質・量・方法ですすぐ。

これは完成した処理手順ではなく、情報の具体性を示す例です。実際に記載する仕様や数値には、バリデーションで裏付けたものを用います。[1:6.6.3]

洗剤の分類名が同じでも、そのまま置き換えられるとは限らない

「中性」「酵素系」といった名称が同じでも、洗剤の処方まで同じとは限りません。

附属書D.2.1は、基本活性物質が同じでも、助剤や添加物等が異なる場合があることを説明しています。D.2.2では、製品や濃度、温度、pH、水質、手技、接触時間などの変更が、結果に影響し得ることを説明しています。別の洗剤に置き換える場合には、既存の評価でどこまで説明できるかを確認します。附属書Dは参考であり、すべての変更に同じ再試験を求めているわけではありません。[1:附属書D.2.1–D.2.2]

例えば、検証した洗剤Aから洗剤Bに変える場合には、一般的な分類名だけで判断せず、処方、使用条件、すすぎへの影響を検討します。必要な追加評価の範囲は、変更内容と既存の証拠に応じて決めます。

また、6.1.5は、必要な装置や材料を一般的名称又は仕様で特定し、一般的名称だけでは十分な情報を示せない場合に商標名を追加できるとしています。商品名だけを載せれば十分、という意味でもありません。[1:6.1.5]

分類名や商品名ではなく、どの条件を検証し、その結果をどこまで適用できるのかを確認することが大切です。

試験計画と指示書をつなぐために、確認したいこと

  • 対象機器と代表品の選定理由が明確で、製品ファミリーとして評価する場合は、共通性と最悪事例となる特性を説明できる。
  • 汚れの種類、付着部位、放置条件を、実際の使用と結び付けている。
  • 洗剤、道具、手順、時間、水質、すすぎ条件が再現できる。
  • 評価方法、回収・分析の能力、合否基準、試験数の根拠を事前に決めている。
  • 試験結果が適用できる範囲と、再使用に伴う制限を整理している。
  • 指示書の条件が試験と一致し、変更時に評価を見直せる。

この回で、持ち帰ってほしいこと

用手洗浄のバリデーションは、試験結果を得るだけでは終わりません。

実際の汚れと洗いにくい条件を踏まえ、手順を具体化し、その条件で得られる結果を評価する。そして、検証した内容を、使用者が再現できる指示書へ反映します。

用手洗浄を扱った第2回・第3回を通じて押さえたいのは、「用手洗浄のみを選ぶ理由」と「その方法で洗える証拠」を別々に整え、その対応を指示書に反映することです。

担当者の経験に依存していた操作を、具体的な条件に置き換える。その条件と、それを支える根拠を切り離さないことが、試験計画と情報提供の精度を高めます。

ここで扱ったのは、再処理全体のうち用手洗浄の検証です。選択した消毒・滅菌の有効性や、繰り返し処理による製品への影響についても、必要な評価を別に整理します。用手洗浄の結果だけで、再処理全体の確認が完了するわけではありません。[1:4.1–4.2、6.3]

参考規格・参照資料

本記事は、関連する規格・公的機関の解説と実務上の知見をもとに、医療機器評価の考え方を解説しています。本文には、規格等に対する執筆者の解釈や実務上の見解を含みます。規格原文の引用・逐語訳ではありません。

[1]JIS T 17664-1:2025 — ヘルスケア製品の処理行為-医療機器の処理行為に関して医療機器製造業者が提供すべき情報-第1部:クリティカル及びセミクリティカル医療機器(外部サイト・別タブで開きます)

対応国際規格:ISO 17664-1:2021(外部サイト・別タブで開きます)(対応の程度:IDT、一致)。上記リンクは公式の規格情報です。

主な参照箇所:3.20(p.5)、4.1–4.3・箇条5(pp.5–6)、6.1.5・6.2・6.3(p.7)、6.4–6.5(pp.7–8)、6.6.3(p.9)、6.9(p.11)、附属書D.2.1–D.2.2(p.22)。ページはJISの印刷ページ番号であり、ISO版のページ番号とは異なります。附属書C・Dは参考です。

[2]FDA. Factors Affecting Quality of Reprocessing.(外部サイト・別タブで開きます)

洗浄試験の考え方に関する参考情報です。JISの要求とは区別して参照しています。本文中の番号は、上記の資料に対応します。

本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別製品への適合性や、規制当局による審査・承認の結果を保証するものではありません。実際の評価では、製品特性、対象市場および適用される規格・ガイダンスを個別に確認してください。