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Melerdis Knowledge — Series 01

Series 01 · 生物学的評価をはじめから第5章

生物学的評価のギャップ分析 ― 手元の情報で足りるかを見極める

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著者:Melerdis Partners

前章では、BEPが、試験の前に「何をもって十分とするか」を決める文書であることを見ました。では、手元の情報は、その基準に足りているのでしょうか。

生物学的評価は、試験を選ぶことではありません。リスクに基づいて評価を設計し、既存の情報、化学分析、試験といった複数のエビデンスを束ねて、一つの結論を出すことです。束ねる前に、まず確かめることがあります。手元の情報で、何が説明でき、何が足りないのか。

それを見極めるのが、ギャップ分析です。この章では、ギャップ分析が何を判断する作業なのかを見ていきます。

ギャップ分析は、試験項目の選定ではない

ギャップ分析と聞くと、こんな作業を思い浮かべるかもしれません。

評価表に、評価すべき生物学的影響が並んでいる。細胞毒性、感作性、刺激性。それぞれについて、手元にデータがあれば丸、なければバツをつける。バツのついた項目を、試験に回す。そのまま、試験機関への見積依頼につながっていく。

この作業そのものが、間違っているわけではありません。評価表は、規格が示す出発点です。

けれど、これだけでは、ギャップ分析の役割は果たせません。

表の項目ごとに丸とバツをつける作業が答えているのは、「どの試験をするか」です。ギャップ分析が答えるべきなのは、その手前にある問いです。

ギャップ分析が答える、一つの問い

その問いとは、手元の情報で、リスクを評価できるか、です。

ISO 10993-1:2025は、ギャップ分析を、利用可能な情報を見直し、リスクアセスメントを行うのに十分かどうかを判断するもの、と位置づけています。問われているのは、試験の有無ではなく、情報の十分性です。

手元の情報には、さまざまなものがあります。材料の組成、供給元から得られる情報、文献、過去の試験データ、臨床で使われてきた実績、化学分析の結果。これらを見渡して、リスクを評価するのに足りているかを判断します。

何をもって「足りている」とするかは、BEPで決めた基準が手がかりになります。規格が示す評価の流れでも、BEPで定めた受入基準と既存のデータを入力として、そのうえでギャップ分析を行う順になっています。基準が先にあるから、足りないものが見えます。

判断の行き先は、大きく三つあります。

足りているなら、そのままリスクの評価へ進みます。追加の情報は要りません。

安全性が確立した製品と十分に似ていることを示せるなら、その製品の情報を使って説明できます。これを生物学的同等性と呼びます。

足りないなら、追加の情報を集めるか、新たに取得します。規格は、その手段として、物理的・化学的な特性評価、臨床での使用データの確認、最終製品の生物学的試験を挙げています。試験は、その選択肢の一つです。動物を使う試験については、文献や化学的・物理的な情報で検討を詰めたうえで、必要な範囲に限ることが求められています。

なぜ、情報の十分性を問うのか ―― 規格の流れから読めること

ギャップ分析が「情報の十分性の判断」であることは、ISO 10993-1の版の流れからも読み取れます。

2018年版では、考え方はすでにありました。附属書には、試験の目的はリスクを評価するための追加データを得ることであり、試験を行う根拠は既存データのリスク分析に基づく、と書かれていました。

ただし、ギャップ分析の位置づけは、試験項目の選択の中に限られていました。試験項目の選び方と同じ箇条に置かれ、箇条の題名は「ギャップ分析及び評価のための生物学的エンドポイントの選択」です。本文にも、既存情報の評価がギャップ分析を可能にし、適切な試験項目の選択を容易にする、と書かれていました。

2025年版では、ギャップ分析は独立した箇条になりました。試験は、別の箇条で扱われています。ギャップ分析の目的は、リスクアセスメントを行うのに情報が十分かを判断することと書かれ、初期の情報収集の後に行うこと、情報を加えるたびに繰り返すことも示されています。

そして、ギャップ分析を文書化することが、この箇条の中で求められています。2018年版でも、追加データが必要かどうかの判断は、評価データの解釈を扱う箇条で記録するものとされていました。2025年版では、情報が足りているかを判断する工程そのものに、記録が求められるようになったのです。

試験項目を選ぶための前段階から、情報が足りているかを判断する独立した工程へ。規格の流れそのものが、ギャップ分析の役割をそう示しています。

現場では、こう起きる

ある製品の評価を始めたとします。

材料は、ほかの医療機器でも長く使われてきた樹脂です。供給元から組成の情報が得られていて、毒性に関する文献もそろっています。材料そのもののリスクは、手元の情報でかなり説明できそうです。

ところが、この製品には、成形のあとに洗浄の工程があり、最後に滅菌されます。成形で使った加工助剤や、洗浄に使った液が残っていないか。滅菌によって材料が変化し、新しい物質が生じていないか。これらは、材料の情報からは分かりません。

これが、この製品のギャップです。

このギャップは、評価表のどの行にも書かれていません。項目ごとに丸とバツをつけるだけでは、見落とされやすい種類のものです。

埋めるために最初に必要なのは、生体適合性試験とは限りません。製造部門に工程で使っている物質を確認する。最終製品から溶け出す物質を、化学分析で調べる。その結果、手元の情報で評価できると分かることもあれば、試験が必要だと分かることもあります。

何が足りないのかが具体的に見えていれば、埋め方も選べます。

判断は、記録して残す

ギャップ分析は、判断です。そして、判断は、書き残さなければ残りません。

とくに大事なのは、「足りている」と判断した場合です。試験をしなかった項目には、試験報告書がありません。そこに残るのは、判断の記録だけです。

何を見て、足りていると判断したのか。何が足りず、それを何で埋めることにしたのか。この記録がなければ、評価の筋道は、本人の頭の中にしか残りません。審査や社内の見直しで「なぜこの試験をしていないのか」と問われたとき、答えになるのは、この記録です。

記録は、次の判断の出発点にもなります。どの情報をもとに、どう判断したかが残っていれば、新しい情報が加わったときに、どこを見直せばよいかが分かります。

ギャップ分析は、繰り返される

ギャップ分析は、一度で終わる作業ではありません。

追加の情報を得たら、もう一度、足りているかを判断し、記録します。足りなければ、さらに情報を補う。この繰り返しの中で、BEPも更新されていきます。

市場に出ている製品でも同じです。規格は、以前の版で評価され、安全に使われてきた実績のある製品に対して、新しい版が出たことを理由に再試験を求めるものではない、としています。過去の評価を見直し、設計や使用方法の変更、追加で考えるべき生物学的影響、文献、有害事象の情報が、結論に影響するかを確認して記録します。製品に変更があれば、その変更に関わるリスクを、最新版に沿って評価します。

既存製品のギャップ分析は、再試験からではなく、見直しから始まります。第3章で見た反復のループは、ここでも回っています。

この章で、持ち帰ってほしいこと

ギャップ分析は、どの試験をやるかを決める作業ではありません。手元の情報で、リスクを評価できるかを判断する作業です。

足りていれば、そのまま評価へ進む。足りなければ、何が足りないのかを具体的に見極め、埋め方を選ぶ。試験は、その選択肢の一つです。

そして、この判断は記録に残し、情報が加わるたびに繰り返します。

では、足りない情報を埋める手段として、動物を使う試験の前に検討すべきものの一つ、化学分析は、製品のリスクをどこまで説明できるのでしょうか。次章で扱います。